夏の句

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2024年

青梅や黒猫の来て引き返す
駆け出して風にふくらむ捕虫網
日盛りやふるさとの水やはらかき
店先の鉢植を買ふ旱梅雨
手をかけぬほどよく育つ蕃茄かな
束の間の夢炎帝の見せ夢
東京の叔母の贔屓の氷菓子
作りたての風心地よし藤の昼
駅前の暑気払ひたるフラダンス
餌を持てばみなマジシャンや春の海
万緑を和装の人の軽やかに
蛙鳴く月に故郷のあるごとく
歩道なき通りを行きて濃紫陽花
見上げれば星見渡せば蛍かな
旧道を抜けて青水無月の海
梔子の花に誘はれ橋通る
犬は日向に猫は日陰に半夏生
夏来る赤白帽の一団に
噴水にいたずらっ子のすまし顔
初夏の山青々となりにけり
鉢植のまはり水散る新樹光
向日葵や今にも動き出しさうな
資本論二冊枕に昼寝かな
雨のくる前のにほひや立葵
居ぬはずの人とも思ふ沙羅の花
鍵盤のごとき石段巣立鳥
更衣ちらしの裏に祖母の詩
ポッケトに缶ビールさす勤め人
黒雲の進む疾さや百合の花
この詩を絶やさぬやうにえごの花
酔芙蓉醜きものを抱へつつ
フライパン洗はぬままに終戦日
新涼や廊下を伝ひくる光
手のひらの水乾きけり夜の秋
昼月や夏をしづかに戦闘機
食卓にカレーの並ぶ葉月かな
ボロボロの洗濯バサミ秋暑し

2023年以前

くちなしの花に誘はれ橋通る
石鹸のゆるゆる溶けて若葉風
一房の紫陽花人を寄せ付けず
青芝を旅行鞄の引かれゆき
白いシャツいろいろあるがこれがいい
公園の薄き石段柿若葉
犬は日向に猫は日陰に半夏生
木のまはり子供駆けたる芒種かな
白南風や米粒に水染みわたる
青空のやうな人あり白日傘
青紫蘇をちぎりて磯の生しらす
夜濯の柔軟剤のかほり満ち
梅雨明の蝶に浮力のありにけり
虹二重遠くぼんやりあるばかり
砂利に開く穴くろぐろと蟻の道
どことなく明治の筆や若楓
香の物添へて卯の花腐しかな
初夏の山青々となりにけり
おにぎりの形まんまる草清水
父の切る西瓜均しくありにけり
炎昼の影に入りたさうな影
次の世は木に生まれたき残暑かな
天牛の進むフェンスの色褪せて

梅雨の句

手足もて余す卯月の少女らは
髪留めの漆黒の照り梅雨の雷
暗雲の進む疾さや百合の花
昼の月夏をしずかに戦闘機
入梅や毛のあるものは毛繕ひ
屋根に立つ足場職人五月晴
青梅や黒猫の来て引き返す